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藝大リレーコラム - 第三十二回 長嶌寛幸「『21世紀なるもの』に向けて」

連続コラム:藝大リレーコラム

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第三十二回 長嶌寛幸「『21世紀なるもの』に向けて」

ふと気がつくと、「今年は後、三ヶ月もない???」という単純な事実に動揺してしまう今日、この頃です。コロナウィルス拡散による世界各国の被害、それに伴う都市のロックダウン、日本における緊急事態宣言、大学においては完全リモートによる授業と、色々な出来事が走馬灯のように浮かんできますが、あまり肉体的な活動を伴わない日々だったためだと思うのですが、どこか「遠い夢」のように思えてなりません。

しかし、その「夢」は終わっていませんし、終わる気配も今の所、見えないと言わざるを得ません。コロナウィルスによる直接的な被害(死亡、そして、回復後の後遺症)、リーマンショックをはるかに超えるだろうと言われている世界経済の失速、ロックダウン以降の世界各国での自殺者の増加、と言葉を失ってしまうような出来事が「日常」として起きています。それだけではなく「マスクをし、他者と距離を取ることが義務付けられた日常」は、人間の思考にも大きな影響を与えていくことは間違いないでしょうし、その影響は政治、経済のレベルにとどまらず、いずれは「人類という存在そのもの」のパラダイムシフトに繋がり、その時、ようやく「21世紀なるもの」の全貌が明らかになるだろうと、個人的には思っています。と同時に、現在の世界の動きを見ていると、それは「20世紀的な価値観、倫理観」からすると「非常におぞましいもの」になってしまう可能性をはらんでいるとも。取り越し苦労だといいのですが???

映画専攻では、9月末に1年生が行うオリエンテーション撮影実習(準備から完成までの商業的な映画制作のワークフローを学ぶカリキュラム)を終えたばかりです。検温、消毒などを行うコロナ対策班の設置、スタッフ全員のマスク着用、俳優については本番まではフェースシールドの着用(メイクがあるので)などのコロナ対策を行い、無事、発病者ゼロで撮影終了を迎えることができました。もちろん、完全な対策は事実上、不可能ですし、撮影場所の制限、撮影時間の短縮などを行う必要があり、「コロナ以前」と同等の撮影をすることはできません。ですが、安全に配慮しながら一歩一歩、前進していくことが、今、何よりも重要なのだと感じています。

そして同時に、「映画を観る」という行為の中で「配信」のウェイトがコロナウィルスによって益々高まってきている現在(とこれから)において、「どのような形で『映画』が存在しうるか」を学生と一緒に考えていくことも。先のパンデミックであるスペイン風邪が日本を襲った1918年には、チャーリー?チャップリンの『犬の生活』が日本で公開されています。観客はどのような想いで、この映画を観たのかを考えつつ。

オリエンテーション撮影実習(準備から完成までの映画制作のワークフローを学ぶカリキュラム)の横浜 馬車道校舎屋上においての撮影風景。

 

写真(上):オリエンテーション撮影実習(準備から完成までの映画制作のワークフローを学ぶカリキュラム)の横浜 馬車道校舎 1階ロビーにセットを設営しての撮影風景。

 

 


【プロフィール】

長嶌寛幸
東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻 教授 1966年生まれ。大学在学中に石井聰亙監督の映画音響ライブ?リミックスを行った事がきっかけで、メディアを問わず多数の作品の音楽、音響を手掛けるようになる。主な映画作品には石井聰亙『エンジェル?ダスト』、大友克洋『メモリーズ エピソード3 ~ 大砲の街』、青山真治『エリ?エリ?レマ?サバクタニ』、万田邦敏『接吻』、篠崎 誠『SHARING』、高橋洋『恐怖』、『2018年 平昌パラリンピック公式映画』などがある。また、電子音楽グループ『Dowser』としての活動も行っている。最新作としては、10月23日公開の映画『空に住む』の音楽を担当している。