一年前、中国?武漢市で新型コロナウイルスに関連した肺炎の発症が相次いでいる中、国内で初めて同ウイルス感染症の陽性患者が確認された。
もちろん、その時は世界を揺るがすほどの事態になることなどほとんどの人は分からず、私もSARSの時のようにいずれは終息するだろうぐらいの考えしか持ちえなかった。
当時の自分の手帳を見ると、大学入試センター試験を終えた翌日の1月27日に事務局の会議で本学の入試での同ウイルス対応をどうすべきか議論をしている。
この時のことを思い出すと、同ウイルスについてほとんど知識のない中、入試実施の課題に突き当たってしまっていた。
本学は他の国立大学と大きく異なり、長期間の試験期間に加え、対面で長時間密閉した部屋で、専攻によっては飛沫が飛ぶこともある科目もある中で対策をとらなければならない。
教員からは「事務局は私たちを危険にさらしてまで試験を実施するつもりなのか。」との声があがっていると聞き、頭を抱えてしまった。
他大学の例は参考にならない。文部科学省に相談しても良い回答は期待できない。私学の芸術学部は藝大の動きを注視している。八方塞がりの状況のなか二次試験の開始日が迫っていき、日に日に緊迫感が増していった。
同ウイルスに対する正確な知識を持たず、不安ばかりが先行する中、入試実施のリミット間際の学部の入試運営委員会に保健管理センターの田中准教授が出席し、正しい情報と感染防止対策を説明し、多くの関係者がそれならば実施しようと考えるようになっていった。
また、どうしても不安が払拭できない職員に替わって、私を含む事務局の管理職が対応することまで決めていた。
物事が進み始めると、素晴らしい集中力と突破力を発揮する本学の教職員のおかげで、無事二次試験を終え、同ウイルスの陽性者を出すことなく新入生を迎えることができることができた。
その後、卒業式?入学式の中止、緊急事態宣言の発出による大学の閉鎖などこの頃立て続けに大きな決定を短期間ですることになった。
また、退任記念演奏会や特別展など藝大の特色である行事も次々に中止に追い込まれていった。
新学期を迎えて学生の皆さんに向けての遠隔授業の準備、教職員にはリモート環境の整備を泥縄式でしのいだことが思い出される。
しばらくすると、制作や演奏の指導を受けるために大学に入学したのに、いつまで遠隔授業を続けつもりか、卒業制作が間に合わないなどの学生の声が届けられるようになった。
制作や演奏などの実技指導には対面で行うことの方が有効的?効果的であることはわかっていたものの感染防止対策との兼ね合いが難しく、手探り状態であった。
ここでも、素晴らしい集中力と突破力を発揮する本学の教職員のおかげで他の国立大学と比べてもいち早く感染防止対策をとったうえでの対面授業を再開し、試行錯誤を重ねて現在に至っている。
また、保健管理センターの田中准教授の指導もあって、本学の対応指針や行動指針も整備していき、これをベースに隔週で教育研究評議会又は学長懇談会で感染状況や本学の基本的な考え方を整理してきている。
同ウイルスに対しては、「正しく知って正しく恐れる」ことが重要であるとの気づかされた一年であり、この事態を一刻でも早く終息に向かわせ、何年何十年先に流行するかもしれない違うタイプのウイルスの危機対応のためにも、大学として様々な資料をアーカイブしておくべきと考えている。
今回、特にこのコラムを掲載するに当たって、保健管理センターの内海センター長、田中准教授をはじめスタッフの皆様に感謝を申し上げます。
ありがとうございました。そして、今後ともよろしくお願いいたします。
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写真(上):下段右から2番目が筆者「事務局会議(オンライン)の様子」
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【プロフィール】
松岡正和
理事?副学長?事務局長
昭和55年2月 東京大学経理部主計課採用
平成22年4月 文部科学省大臣官房会計課財務分析評価企画官
平成25年4月 日本スポーツ振興センタースポーツ振興事業部長
平成28年4月 大阪教育大学理事?副学長
平成30年4月 同 理事?事務局長
平成31年4月 東京藝術大学事務局長
令和1年10月 同 副学長
令和2年 4月 同 理事