1979年には「ジャパン?アズ?No1」と、エズラ?ボーゲルが著した国、1995年に世界のGDPの17.6%を占めていた日本のGDPは2018年に5.7%に下降。アジア諸国の台頭に比べ、日本の衰退は余りにも顕著だ。
一つには教育にあるような気がする。日本では小学生の頃から点数評価で間違いをしないようにと教育され、自己肯定感が低い。他人と自分を比較しながらも、何しろミスをしないように…他の人と同じように…という人生だ。しかも、少子化で褒めて育てようという風潮があるが、基本的な評価方法は変わらないので、打たれ弱く、自信を失う子供達が続出する。
?バブル崩壊後、日本は過去の先例頼みで、張り巡らされた規制網に縛られ…新たなデジタル改革にもなかなか取り組めず何年も過ぎてしまった。コロナ禍が拍車をかけて、やっとデジタル化が進む現在、気付くとアメリカのGAFAM、中国のBATHのような巨大企業は無い。某教授のお話では「デジタル革命の第一フェーズで日本は完敗!しかし、戦後の日本を考えると、まだまだその頃よりはマシだ。」日本への期待は第二フェーズに向けられている。
藝大をみると、藝大に来ようと言う学生はまず、この日本の教育結果としてのジャンルに入らない筈だ、というか入ってほしくない。しかし、日本という組織疲労を起こしているような国でアーティストとして生きる事はアメリカ以上に難しい事を学生の頃から自覚してほしい。この道を選んだからには覚悟と準備が必要だ!
社会に出て、卒業生全員がアーティストとして成功するわけでは無い。成功するには才能は勿論、運も感もコミュニケーション能力も必要だ。
そこでアメリカでも有数なNYの美術大学Pratt Instituteのキャリア支援センターで話を聞いた。此処では学部?院生だけでなく、卒業生もいくらでも相談出来るシステムが出来ている。そこでは様々な情報があるし、激しい競争社会で疲れきった心を癒すメディテーション指導まである。
彼らはインターンシップを大切な学業の単位にしている。(アメリカではこうした大学は多い。)美術館、NPO、大企業、ベンチャー、ギャラリー何処でもインターン学生は大歓迎だ。期間は半年から1年以上の人もいるそうで、そこで学生は卒業したら、どう言う社会が待っているか知る事ができ、就職につながらなくても、社会を覗くだけで自分の作品にも生かせる。賃金もそれなりに支払われ、10万から15万で働いてくれる学生は企業にとってはマイナスではない。
私は藝大でキャリア担当理事をして3年目になる。大学としては規模の小さい東京藝術大学に、エリートとして通う学生が4年、6年を過ごし、いわば無菌状態から突然、社会に出される事になってしまうのを見て…本人は分からないかも知れないが、可哀想すぎる!と思っている。社会に出ても、大好きな制作を一生続けるにはそれなりの準備と覚悟が必要という事を是非、学生の内に学んでほしい。
写真(上):Prattのキャリア支援センターや図書館のある事務局棟
【プロフィール】
麻生和子
2005年に新進の日本人アーティストを紹介するプラットフォーム:「団DANS」を創立、ディレクター兼オーガナイザーを務める。 非営利のオールボランティアベンチャーで、2020年までに日本国内およびワシントンD.C.、ベルリン、ロンドン、パリなど海外を含め17回の展覧会を開催し、170名以上のアーティストを国内?国外に紹介し、彼らのキャリアに貢献。2017年に日本の現代芸術への支援に対して第7回東京賞を受賞。 慶應義塾大学で社会学の学士号を取得し(1969年)、現在は同大学最古OB会である慶應倶楽部の評議員(2008年~)、財団法人:ラスキン文庫の評議員(2005年~)を務める。2000年には、シスター筧と有志とで共同でフィリピンに幼稚園を設立するなど、慈善活動にも力を注いだ。2014年よりアジアン?カルチュラル?カウンシル(ACC)日本アドバイザリーボードのメンバーを務め、2018年よりACC日本財団を設立し、現在、ACC日本財団代表理事を務める。2020年より東京藝術大学 理事(学長特命担当/キャリア支援室担当)を務める。