? 2023年、日常を取り戻すことと、変化してしまった日常のギャップに戸惑いながら進まなくてはならなかったこの年に完全復活をさせることとなった藝祭は険しい道のりを経て、大成功の中、幕を閉じました。天気に恵まれた三日間の藝大は、いつもの静かな緑の多いキャンパスの姿とはまるで違い、沢山の人で賑わう祭の姿を見せました。年に一度のこの祭を今年も無事繋いでいくことができ、私自身も委員長として非常に嬉しく思っています。
私が実行委員長になろうと決めたのは昨年9月、藝祭2022の最終日でした。前年度の委員長の勇姿を見ながら、私も委員会でしか見られない景色を見たいと思い、委員長になりました。しかし、今年4月にはすでに大きな壁にぶつかり、心が折れそうになりました。人はどれだけ必要なのか、お金はどれだけ必要なのか、模擬店は、演奏会の座席は、入場制限は…。完全現地開催で行った藝祭はすでに4年前。4年という時間はあっという間のようで、想像以上に長く、変わってしまったことも多いことは言うまでもありませんでした。それでも、何を変えて何を引き継げばいいのかを何度も沢山の委員や先輩、職員の方と話しあった時間そのものも藝祭の大切な一部なのだと実感し、今では大切な思い出になっています。時には厳しい言葉をかけられたり、思い通りに行かなかったりすることも多くありましたが、そんな険しい山道のような準備段階からずっと協力し、支えてくださった委員会の皆には感謝しかありません。
さて、本コラムの表題にしたフレーズは本年度藝祭のテーマです。新型コロナウイルス真っ只中に高校生活を送った私は、従来通りの文化祭や修学旅行の思い出がありません。同じように、藝祭を現地開催できないことや規模を縮小することの悔しさは痛いほどに伝わり、だからこそ今年は復活させられることへのありがたさや貴重さを身にしみて感じました。私たちの「いま」は当たり前にあるものではなく、そして二度と戻ってはこないということ。そして、生きていくということは、そんな「いま」を積み重ねていくのだということ。そのように感じたことから、藝大生が全身全霊で生きている「いま」を「ここ」藝大で重ね合わせることによって感じられる何かがあるのではないかと思い、幹部委員と熟考を重ねた結果、このテーマに決めました。
「いま、ここで。あなたと、わたしと。」
この言葉は、私が実行委員長として藝祭で感じて欲しかったことの全てを表しています。
皆さんの藝祭2023が「いま、ここで」過ごした素敵な一瞬一瞬で溢れた思い出になっていることを願います。
最後になりましたが、藝祭にお越しくださった沢山のお客様、協力いただいた関係者の皆様、そして藝大生の皆さんと藝祭実行委員会に心から感謝を申し上げます。
【プロフィール】
高尾 珠生
東京藝術大学音楽学部楽理科二年次在学中
藝祭2023実行委員会 委員長