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藝大リレーコラム - 第七十七回 安部良「藝大着任に際して」

連続コラム:藝大リレーコラム

連続コラム:藝大リレーコラム

第七十七回 安部良「藝大着任に際して」

 4月から本学建築科に就任いたしました。5月には科内で就任記念レクチャーを企画していただき「Art vs Architecture, Architecture with Art.」というテーマで、私の建築家としての背景と活動を紹介しました。

 これまで、大学などの招聘で講演するときは「建築とは何か?建築家とは何者か?」というテーマで、平たく言えば「作家としてどのように生きてきたか?」という話をしてきました。私の場合、コマーシャルな仕事からはできるだけ距離を置き、仕事の依頼を待つだけではなく、より先駆的な作品を発表するための機会を探すようになりました。結果、ボランティアや手弁当でも様々な地域に出かけ、コミュニティ活性の場面となる拠点づくりを提案するスタイルを続けています。

就任記念レクチャー(2024年5月24日)の様子

 そうした実務を通じ、「生活環境を良くできることすべてがデザインだ」と思うようになり、地域の課題解決に応える建築、さらには建築の以前やその後のプロセスにも関わる機会が多くなっています。建築のテーマは地域の課題に呼応し幅広く、高齢者や障害者の生活環境の改善、空き家の適正管理と活用、過疎地域の移住促進とコミュニティづくり、地域固有景観の継承、子どもの遊びや教育、社会包摂、動物福祉、人間と自然の新しい関係などなど、多岐にわたります。

 今回、そんな私の建築活動を「芸術との関わり」という、いつもとは違う視点で見直してみたところ、建築を志す以前の、10代のころの芸術への憧れや、建築を学び始めてからの芸術への嫉妬、そして、建築家として彫刻?絵画?音楽?映画?ファッション?現代美術?アートプロジェクトなど様々な芸術領域や芸術家たちに触発され、協働しながら「建築」を考えてきたことを思い返す良い機会となりました。本学に着任してからというもの、私にとっての建築は、いつも芸術と共にあったのだと再発見しています。

 奇しくも入学式の学長挨拶において、本学が「芸術が社会に貢献できることを研究して実践していく」取り組みとして「芸術未来研究場」を立ち上げたことを知り、さらに谷中地域の交流拠点「藝大部屋」の整備には、安部研究室としてお手伝いする機会をいただいています。そして7月からは、J-PEAKSによる香川大学との連携プロジェクトにも参加させて頂くことになりました。様々なプロジェクトを通じ瀬戸内海の離島には長く関わってきましたが、これまでには考えてもみなかった巡り合わせを、ここ東京藝術大学で感じています。

藝大部屋で実施したインクルーシブデザインに関する授業の様子

香川県豊島で進行中の、島の福祉の拠点づくりプロジェクト

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写真(上):同プロジェクトの福祉施設?豊島神愛館


【プロフィール】

安部良
東京藝術大学 美術学部建築科准教授 建築家。1966年広島県生まれ。早稲田大学大学院修士課程、九州大学芸術工学府博士課程修了。 1995年にArchitects Atelier Ryo Abeを設立、2024年より東京藝術大学美術学部准教授。 各地で住宅、店鋪、公共建築、社会福祉施設等の建築設計業務を統括。地域拠点や新しい福祉の場などの設計を通じ、“コミュニティの見える場面”づくりに取り組む。代表作である島キッチン(香川県豊島)をはじめ、あわくら温泉元湯(岡山県?粟倉村)、十津川村高森のいえ(奈良県十津川村)、福屋八丁堀本店パブリックガーデンSORALA(広島県広島市)、豊島神愛館プロジェクト(香川県豊島)など、地域活性の基盤づくりとその舞台となる場を手がけ、近年では南フランス?カランク国立公園など、海外での建築プロジェクトも進行中。 島キッチンでは日本建築学会賞作品賞(2021年)、AR Award for Emerging Architecture 大賞(2010年)、World Architecture Festival 2011 Completed Buildings, Culture大賞(2011年)を受賞、その他受賞歴多数。