昭和48年に音楽学部器楽科ヴァイオリン専攻に入学した頃の私は、現役の18歳だったにもかかわらず、身長、体重は45年後の今とさほど変わらず、風貌はと言えば、入学前に背広を新調するために訪れたデパートで、付き添った母が「ご主人様にはこちらの生地がお似合いで??」と言われたほどのオッサンだった。中学時代から時折指導していただいていた、当時のヴァイオリン科教授の兎束龍夫(うづか?たつお)先生に入学のご挨拶をした時に、「地方出身だからといって遠慮せず、大学の廊下の真ん中を堂々と歩きなさい!」と励ましていただいたのを真に受けたら、すれ違う先輩たちが私を新任の先生と勘違いしたのか、深々とお辞儀された。
残念ながら昨年急逝された副学長の松下功先生も同期の作曲専攻だった。松下先生は、入学後すぐに1年生の弦楽合奏の授業を見学したら、コンサートマスターに助教授らしき人物が座っていて、「さすが藝大!」と思っていたら、その後、大教室で一緒に授業を受けている私を見つけ、実は同級生だったことがわかったと話していた。他にも同期生は、多士済々で、その後、藝大教授となった人だけでも、小鍛冶邦隆(作曲)、照屋正樹(ソルフェージュ)、土田英三郎(楽理)、武田孝史(能楽)、鈴木雅明(古楽:現?名誉教授)といった方々が名を連ね、作曲家、演奏家、教育者、研究者として日本の音楽界を牽引している方たちは多い。
在学中から、仲の良い学年で、卒業後も折に触れて集まっているが、卒業25周年にあたる2003年(平成15年)には、同期の美術学部出身者たちの協力も得て、まだ新築の香りの残る奏楽堂で手作りの演奏会を立ち上げ、収益を当時の平山郁夫学長にお届けした。2018年には卒業40周年を記念して、昭和48年度入学に因んで「藝大48」(Geidai Forty-eight)と名付け、国立大学から法人となって財政難に苦しむ母校に、収益金を寄付する目的でファンドレイジングコンサートを行った。以前の演奏会から15年ぶり、あるいは卒業以来40年ぶりの仲間たちと旧交を温めあいながら、能楽、邦楽合奏、室内楽、オーケストラ、合唱と4時間に及ぶ大演奏会、しかも現役の学生たちの協力も得て、世代を超えた交流も実現し、とても充実したものとなった。ほぼ完売となったチケット収入のほかに、企業や個人の協賛金なども加わり、前回を大きく上回る寄付を藝大基金および音楽学部教育研究基金に入れる事が出来た。
一昨年、創立130周年記念として行われた美術学部の教員や卒業生110名の作家が作品を大学に寄贈し、チャリティーオークションの収益をもとに設立された「東京藝術大学若手芸術家支援基金」などとともに、法人化後の大学運営に携わる立場となった今、卒業生と大学との密接な相互関係の大切さと有り難さを実感している。
在学時、友人たちと組んでいたラーチェ
※前列右から2番目は器楽科ヴィオラ専攻の川﨑和憲教授
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1967年3月 小学校卒業時
【プロフィール】
澤 和樹
1955年、和歌山市生まれ。'79年、東京藝術大学大学院音楽研究科修了。ロン=ティボー、ヴィエニアフスキ、ミュンヘンなどの国際コンクールに入賞。イザイ?メダル、ボルドー音楽祭金メダル受賞など、ヴァイオリニストとして国際的に活躍。'90年、澤クヮルテット結成。'96年、指揮活動開始。2004年、和歌山県文化賞受賞。'15年、英国王立音楽院名誉教授。'16年4月より東京藝術大学学長。